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2017.03.13 Monday

教師の派閥相関図

JUGEMテーマ:学校のこと

 

 

 中学生の時のことだ。ある日、ちょっとした出来事がきっかけで、学校の教師と教師の間にもお互いに好き嫌いがあり、派閥もあることに、私は気がついた。
 ちょっとした出来事というのは、ある教師とある教師が、生徒達に対して、まったく正反対の指導をしていたことだった。実にくだらないことなのだが、むきになったように教師達は指導していた。


 その頃、私の通っていた中学では、校内で新校舎の工事を行っていた。そのため、普段は教室棟から体育館へ渡り廊下で直に行けるのだが、いったん校庭に出て、それからでないと体育館に入れない状況であった。そんな時に、何の行事だったかは忘れたが、全校生徒が体育館に集められることになったのである。

 

 外履きに履き替えて、上履きを手に持って校庭を通り、体育館の入口で上履きに履き替えてから中に入らなければならない。そんな面倒な事情があるにも関わらず、全校生徒がほぼ一斉に体育館にやって来て、靴を履き替えようとしたため、すぐ生徒でいっぱいになり、入口が詰まったような状態になってしまった。

 

 そこで、ある教師が、
「入口で履き替えると後ろがつっかえるから、中に入ってから履き替えろ」
と、指導した。
 しかし別の教師が、
「土足で体育館に入るな、入口で上履きに履き替えてから入れ」
と、まったく逆のことを言い始めた。

 

 その教師二人は、相手の声がよく聞こえる距離にいた。相手の声が聞こえているにも関わらず、無視し合って正反対のことを生徒に言っていたのである。しかも、お互いに何回も繰り返して叫ぶように言っていた。
 言い方や語調などから、二人とも、心から相手の教師のことを嫌い、憎み、蔑んでんでいることがよくわかり、非常に興味深い光景であった。

 

 さらに、それぞれの教師に賛同的な別な教師も少しずつ加わりはじめ、教師達が二つのグループに分かれそうになっていった。いや、正確に言えば、その他にも傍観者的な態度を取る教師達もいたように思う。

 

 その事態がもっと長引けばさらに興味深い事態へ発展したかもしれない。だが、間もなく体育館の中に全員の生徒が入ってしまったため、この件をめぐる教師達のグループ分けは曖昧なままになり、大人の人間関係が支配する場へと移行したのである。

 

 生徒達がどちらの教師の指導に従っていたのかといえば「どちらも、いたようだ」としか答えられない。自分に近い方にいた教師の言うことに従っていた生徒もいただろうし、教師の言うことなど聞かずに自分の考えで行動していた者もいたように思う。私はたまたま入口が混雑する前の早い段階で体育館の中に入れたので、その状況をにやにやしながら眺めていたのである。

 


 私は、この件で、教師にも派閥があるだろうと推測した。そして、その推測に基づいて教師達の観察を続けるうちに、間違いなく派閥があることを確信したのである。

 

 どんな組織にも派閥があるのは、後で思えば当然のことなのだが、純朴な中学生の私にとっては、そのことがかなり愉快に感じられた。そのため、この時から私は、教師達の派閥を探ることに熱中したのである。

 

 教師どうしが廊下ですれ違った時の、ちょっとした表情や、同じ場に居合わせた時の態度などにも目を光らせた。そうやって人間関係を推測しながらノートに書き出しては、派閥相関図の作成に邁進していった。

 

 いつしか私は職員室に行くのも楽しみになっていた。職員室の中で、どの教師とどの教師が親しそうにしているか調べることができるからだ。もちろん、逆に仲が悪そうな雰囲気を感じるとることも、派閥相関図の作成にとっては重要なことであった。

 

 「あの教師とこの教師は仲が良さそうなので、あの派閥だろう。だから、その派閥に属しているその教師とは仲が悪いはずだ」
などと想像しながら推測を重ね、その推測を裏付ける出来事や状況に出会えるチャンスを待ったりもした。

 

 時には推測とまったく違う教師の発言や動きにも出くわし、人間という動物の愛すべき表裏なども学ばさせていただきながら、教師達の人間関係を整理していったのである。
 もちろん、派閥分けの裏付けになる出来事や、教師の発言なども、しっかり相関図に書き添えて、資料としての価値を高めることも忘れなかった。


 今思えば、それくらいで止めておけばよかったと思う。そうだ、派閥相関図を作るくらいで止めておけばよかったのだ。つくづくそう思う。

 

 しかし、ある時、私はふと、
「この相関図を教師達が見たらどう思うだろう」
と、考えてしまったのである。

 

 もちろん、最初はそう考えただけで、実際に見せようとは思っていなかった。むしろ、見られたらまずいと思っていた。

 

 だが、教師達に見られてしまった時のことを、私は想像して楽しんでもいた。その想像がいけなかったのだろう。だんだんと妄想が膨らんでいき、やがて私は、大きくなりすぎた妄想に決着をつけたいという気持ちを抑えることができなくなってしまったのである。

 

 私が調べ上げた、この派閥相関図を教師達の前に広げてみたい。そして、どう反応するか、どんな表情をするか確かめたい。それが止められない衝動となっていった。

 


 どうせやるなら最も効果的な方法で実行したい。黙殺されるような結果になってはつまらない。少なくとも複数の教師の目に止まらないとだめだ。相関図を目にする教師は多ければ多いほどいい。そうすれば、中には大きく面白い反応する教師もいるだろう。騒ぎ出す教師もいるかもしれない。怒る教師もいるかもしれない。派閥に属さない傍観者的な立場の教師は楽しんでくれるかもしれない。

 

 ただし、もちろんだが、私がやったことがバレてはならない。そこは絶対だ。実行者は決してわからないようにしなければならない。
 だが逆に、この学校の生徒の内の誰かがやったと思われなければ、それはそれで面白くない。
 「あなた方教師の動向はいつも生徒に監視されていて、分析されているんだよ」
と、分からせないとつまらないのだ。

 

 さらに、その相関図は当然のこととして、全校生徒の目にもさらされことになる。それによって、これからはいつもその相関図に基づいて全生徒が全教師を観察することになるのだ。「今後、教師各位にあっては、そのこと常にを頭に入れて振る舞っていただきたい」というのが私の願いであった。

 


 さて、どうやって実行しようか。全員の教師に一斉に郵便で送りつけてみるか。夜中に校内に忍び込んでコピーを何枚も撒いておくか。

 私は様々な方法を考え、頭の中でシミュレーションを繰り返した。実行中に不測の事態が起きた場合のことも想定しながら、最も成功率が高い方法を模索したのである。
 そしてついに機は熟し、決行の判断を下すことにした。


 その日、私は努めて平静を装い、何事もないかのように登校し、なるべくいつもと同じように授業を受け、時が来るの待った。
 おそらく、そこまでは上手くいっていただろうと考える。誰からも、いつもと違う変な反応はなかったし、自分でも何かを悟られるようなおかしな行動はしていなかっと思う。疑われるような態度は一切とっていなかったはずであった。

 

 

 

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